テュアン神話 ＊戻る
【宇宙創造】
・かつて、この世界には何の形もなかった。この時の宇宙を原宇宙・ナウハという。やがて、ナウハは二つに分かれ、男月タス・マヌと女月ウルス・マヌとなった。そして宇宙の他の場所には何もなくなり、ただ二つの月神になり損ねた欠片だけが散らばった。これらが星である。やがて、二つの月はゆっくりと周り出し、何度も重なって、この世界の元となる神々を生み出した。一番上の兄神、ファタは燃え上がり、太陽となって空に昇った。二番目の姉神、リュイトは宇宙の高い所と低い所の間を流れ、水となった。そして三番目の弟神、テュアンは、そのあまりの重さで天の高きにも半ばにも留まる事が出来ず、宇宙の最も低き所へ落ちて大地となった。それがこの世界、テュアンである。
・始め、テュアンの上には何も無かったが、やがて様々なものが生まれ出てきた。まず、太陽神ファタと水神リュイトの間を流れる風から、火、土、石、金属などの命なき者たちが生まれた。水神リュイトと大地神テュアンの接する所からは、植物や虫、魚など命ある者が生まれた。そして、あまりに離れてしまったファタとテュアンの間をつなぐ伝令として、草原の中からショマ（キツネウマ）が生み出された。彼らショマの体は草、魂は風で出来ており、その声や心はファタの意をテュアンに告げ、もしくはテュアンの意をファタに伝えるのである。男月と女月はさらに交わり続け、この世界の後継となり、神々を継ぐ者を生み出そうとした。そうして生まれてきたのがテュアンの八種族である。すなわち、満月（ファン）の時に生まれたのがムル、半月（メア）の時に生まれたのがバクァ、三日月（エア）の時に生まれたのがムアナ、新月（ディ）の時に生まれたのがヤフである。そして、離月（マナ）の時に生まれたのがオム、接月（ミア）の時に生まれたのがレア、融月（メトア）の時に生まれたのがタッツ、二重月（モーム）の時に生まれたのがウォノである。こうして八種族が生み出されたのだが、それぞれの種族は「自分こそ月の後継」と言い張り、相争い、男月と女月の言う事を聞かなくなった。このため、男月と女月は種族を生み出すのをやめてしまい、語る事もしなくなった。この時から、神々と人は直接に話す事が出来なくなったのである。
・やがて、男月と女月は、最も月を見る能力に優れているウォノに、月と人との間の橋渡しを託した。こうしてウォノの一族は神官と定められた。月は、ウォノを通じ、最も優れた「真実の人」（イアット）を生み出したい、と告げた。しかし、このままではイアットはテュアンの上では暮らせないだろう、とも。そして、八の全ての種族に、月の教えを守って、少しでも真実の人、イアットに近付くようにと諭した。そうすれば、どの種族からか、やがてイアットが生まれて来るかも知れない。しかし、いつまでも永遠にイアットを生み出せないのならば、月は八種族を守るのをやめ、遠くに去って別の世界にイアットを生み出すであろうと。こうして八種族は争いをやめ、イアットに近付くために生きるようになった。それが現在のテュアンである。この宇宙が終わる時に、どれかの種族がイアットとなるのか、それとも八種族は見捨てられ、別のイアットが誕生するのかは、宇宙の終わりが来ないと分からないのである。
【月章神話】
・月と人が直接に話せなくなってから、月は印を与え、それによって人々に月の意を語る事にした。それが月章である。月章は、八の種族が生まれた時の、それぞれの月の相を形に表したものである。よってそれらが各種族の守護月章となるが、テュアンの全ては月の子供であるから、月章は総じてテュアンの者全員を守るのである。ただ、誤った使い方をしたり、邪な心で月章を持てば、それは悪しき力となって持つ者を滅ぼす。
・それぞれの月章は、持つ力も、性質も違うため、一つの月章で全ての力を発揮する事は出来ない。だが、八種族は月章から、それぞれに力を受けて暮らしている。
すなわち、新生と喪失の力を持つ新月（ディ）は、ヤフに、飛翔力など他種族にはない力と、今までにない物を生み出す冶金の力を与えた。
可能性と特異の力を持つ三日月（エア）は、ムアナに可能性を開く知恵と、特異な生き方、長命を与えた。
友好と夢幻の力を持つ半月（メア）は、バクァに全ての種族を識る能力と、魔導力を与えた。
富と孤独の力を持つ満月（ファン）は、ムルに孤独な狩猟の道と、それによる大いなる富を与えた。
安定と別離の力を持つ離月（マナ）は、オムに平穏な暮らしと、どの種族の間でも生きていける強さを与えた。
勝利と触発の力を持つ接月（ミア）は、レアに誰よりも強い戦闘力と、海に隠れた物を見付け出す力を与えた。
協力と混沌の力を持つ融月（メトア）は、タッツに物を融合させ、作り替える技術と、多くの子孫を与えた。
再生と沈黙の力を持つ二重月（モーム）は、ウォノに生死を見届ける力と、祈りを与えた。
これらの力は、月の教えを守る他の種族をも守っているのである。