異次元騎士（ナイト）の大冒険　　　　＊戻る

　　　＊内容

　１００点理科特集の第２弾。前年の「世にもきみょうな館」のパターンをそのまま引き継ぎ、ロープレ風の物語の中で理科クイズを解いていく。…しかし、「前年とはやや変えて」主人公を内気な性格に…した所から方向は一転。ヒーロー性のかけらもない、重いシリアスなＳＦと化してしまった。むろん昨年より人気は無かったが、作者は大変気に入っているという、困った作品。

　　　＊登場人物・登場異世界人

　　　＊ストーリー

　内気で、ゲーム好きの小学生「岸田内人」。ある時、ゲームクリア後、画面に少女が現れる。彼女とリンクしてしまった内人は、この世界の裏側に存在するもう一つの世界、「鏡の国」に引きずり込まれ、鏡の国に危機が迫っている事を教えられる。少女は鏡の国の姫、“リカーナ”であり、遠い所に捕らわれているが、テレパシーを使い、戦ってくれる“理科の勇士”を探していたというのだ。リカーナは“ルーちゃん”という生意気なオウムを内人に託して姿を消す。

　ルーちゃんの語る所によると、鏡の国は平和で、高度な文明の発達した世界だが、ある時ロボットが反乱を起こして征服されたのだという。彼等は人のように心を持ち、自力で思考する。そして自らを「マシンナー」と呼び、“やみの皇帝”という指導者を頂いている。だが、この国には「理科の勇士の伝説」があった。世界が滅ぶ時に現れ、戦うというのだ。内人はリカーナの声が聞こえた「勇士」だという。そんな自覚も何もないまま、内人はなりゆきで鏡の国に旅立つ。

　鏡の国で内人は、関西弁のドラゴン「ドラ丸」、魔法を使うキツネ族の少女「くれないおコン」と出会う。そして、この世界では“魔石”と呼ばれる石が大変な価値を持つことを教えられる。魔石はマシンナーの体内にあり、倒す事で入手できる。そのまま通貨代わりにもなるし、金にも換えられるのだ。ドラ丸やおコンは魔石で生計を立てていたが、内人がボスの一人を倒してしまったため、商売が出来なくなり、責任を取らせようと内人にくっついて旅をする事になる。

　「理科の勇士」は、理科の問題を一つも間違える事なく答えられる、という伝説があるため、マシンナーはナイトに理科の設問を出し、間違えさせようと試みる。それがだめなら襲いかかってくる。ロボットたちと戦い、リカーナのテレパシーに導かれながら旅は続く。やがて内人は金色に輝く不思議な石を手に入れる。この石は、マシンナーのエネルギーを吸い取る力を持っており、時にはそのエネルギーで武器に変わったり、空を飛ぶ力を与えたりして内人たちを助けるようになる。

　倒しても倒しても作り出されるマシンナーを、根本的に封じるためには、魔石の力の大元である“大魔石”を封じるしかない、とリカーナは告げる。しかし大魔石はやみの皇帝に奪われ、リカーナもまた、内人たちにテレパシーで助力していた事が発覚したため、皇帝に魂を抜かれてしまう。リカーナの思念が途絶えたことを心配したルーちゃんは、その本来の姿に戻って内人に真実を告げる。実はルーちゃんは、鏡の国の王室顧問の大魔導師“ルードビッヒ”であり、魔石を作った張本人だった。魔石は本来、心のないロボットに心を与えるために作られた、固形化した魔力だったのだ。しかしそれは「悪の心」をも産みだしてしまった。リカーナを探すため、ルーちゃんはパーティーを離れ、一人去る。そしておコンも、魔力を奪われて本来のキツネの姿に戻った事を恥じて、去ってゆく。ドラ丸はおコンを追う。内人は一人きりになり、単独でリカーナを救出することを決意する。

　内人は囚われのリカーナを発見するが、リカーナの魂は抜かれ、マシンナーの魂と入れ替えられていた。生き物は醜い、この世界の全てを機械化するのだと言い放つリカーナ。しかし、金色の石、そしてもう一つ手に入れた銀色の石の力で、内人はリカーナを元に戻す。去っていた仲間たちも駆けつけ、初めてパーティー全員が揃う。

　かつて内人と同じように、鏡の国に迷い込んだ男がいた。その頃科学というものがなかった鏡の国に、男は科学的知識を教え、やがてこの国の王となった。それがリカーナの祖先、初代の王だった。そして王は内人の先祖でもあったのだ。王は未来を予感し、魔力を封じる金と銀の石を作っておいた。思念体となり、内人に大魔石の封じ方を伝える王。そして、やみの皇帝の力で、巨人と化した大魔石と内人たちの最後の決戦が始まる。　…

　　　＊全編内容　（３，４年の科学　’９６〜’９７年）

　　　＊裏設定

〔おコンの自然魔法〕

・自然魔法とは、その名の通り、周囲に自然物がないと使えない魔法。風魔法なら風、火魔法なら火が術者の一定半径内に存在する事が使用条件である。実はこれはオリジナルではなく、ＰＣエンジン時代のゲーム「マジクール」の設定から盗作したものだ。（すんません）自作の部分は「時空魔法」で、これは時空間ならどこにでもあるため事実上「無制限」の魔法である。魂の入れ替えやブラックホールの召還など、かなり凶悪なものを含むため、王族にしか伝えられてない。術の難易度は、風系が一番易しく、水、火、光、雷、時空の順で難しくなる。

〔「鏡の国」について〕

・「鏡の国」（ミラーサイド）は極めてテキトーに考えた世界で、もちろん当初からちゃんと設定してあったわけではないが、高度な技術と魔法が混在してたりして、あまりにも説明が付かないので、後から色々考えてつじつまを合わせたりした。当然、作品的には全く不要の部分。

　鏡の国は、この世界の一種の平行宇宙だと思われる。というより、時空のたるみの部分に、気泡のようにくっついた空白地帯、もしくは影のようなものだ。その世界地図は、地球の大陸をちょうど南北で逆転した形になっている。時間の流れも一定ではなく、ミラーサイドの一年は地球の数分間に当たる。地上空間のある一点に集約してリンクし、詰め込まれたような形で存在しているらしい。その「一点」に当たるのが“鏡”なので、運が悪いと人は鏡に吸い込まれ、ミラーサイドへ飛んでしまう、というわけだ。不思議な事に、「鏡の国」には「鏡」というものがない。地球上より、より簡単に鏡から別空間にワープしてしまうため、危険物とされているようだ。

　「金と銀の石」もしくは「魔石」が何で出来ているかは、最後まで分からなかった。何らかの物理的な力を「固めた」ものらしい、という事だけである。ただ、魔石が「ソフトウェア」もしくは「ウィルス」に当たるとすれば、金と銀の石はシステムのバックアップとデータベースに相当するようだ。金と銀の石によって力を吸い取られた魔石はただの石コロと化してしまう。魔石を封印し、ただの石に戻せば、マシンナーたちはただのロボットに戻り、鏡の国は平和になるわけだが、魔石はすでに経済活動に深く関わってしまっているので、石の封印は国家財産の大半の喪失、経済的大暴落、恐慌をも意味するのだ！　作者としては、敵を倒した後のリカーナの政治的危機の方が、やみの皇帝なんかよりよっぽど心配だった。(^^;　ちなみに、魔石を影で買い上げていたのは当然、マシンナーたちである。魔石自体を収集するのが目的だったのに、それがおコンのような「魔石ハンター」（マシンナーを倒して魔石を奪い、売る）を大量に生み出したのは、経済的皮肉としか言いようがない。

　　　＊作者の弁

　ハッキリ言って、この話は子供の読者を無視している。…と言うか、全く子供を助けたり、楽しませたりする気がない作品だった。相手はまだか弱い心を持つ人たちなのだから、もっと優しい、おいしい世界にしないとついて来てくれない事は分かってるのに、どうしてもそうできなかったのだ。おコンやドラ丸は自分の商売の為だけに戦い、危なくなったら平気で内人を裏切るし、リカーナはどうやら拷問されているらしい。第一ヒーローの筈の内人が何の特殊能力も強さもなく、最初から仕舞までただの人のままなのである。人気が無いため、ページやスペースがどんどん減らされて行き、果たして最期まで話を持って行けるのかと、気が気でなかった。

　それでもなおかつ、作者は反省していない。編集氏や関わったデザイナーの方々に申し訳ないとは思うけれど、作者個人にとっては、これはどうしても描かねばならないものだったらしい。子供が大人を倒す。助けられて全てがうまくいく。…世の中、そんな筈がないじゃないか。もしもそうなっているとしたら、それは確実に大人が後ろで手を回しているのだ。そんな「子供マンガを描く」事に対するジレンマが、噴出する限界まで来ていたのだろう。

　決して「成功作」とは言えず、何度考えてもこれ以上のハッピーエンドにならない物語。でも、結果的には描かせてもらえて良かったと思っている。「子供向け」という名の檻をひとつ壊す事ができたし、いくたはこれで少し（あくまで少しだが）吹っ切れたからだ。そして、極めて自分勝手な言い分だが、これはいくたにとって「大切な失敗作」となったのである。

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