・夢
・覚醒ロマンス
・覚醒タップダンス
・愛はかげろーさん
・おなにー・ぶるー〈こんなタイトルつけんなよ〉
・ヨメにゆく恐怖
・笑えば野垂死
・ひとりぽっちの夜空に…
・雨の惨状
・朝の― 悲しみわ
・闇の神話
・コミニケーション・ブルー
・まつり
・ジェリコのバラ
・それでも海に還りたいか
・たたかわず
・コンクリート・ジャングルブック
・ゆきン子
・幸福
★夢
引っ越し直前の部屋の中で
ああ まったく有るはずのものがないんだから
と こぼせば
でも 無いはずのものがあるだろう
と 猫
すなわち人間は常に宇宙と文明のともづれなのだ
なぜならこの部屋すらも宇宙の一端なのだから
と 言いながら隣のふすまを開けた
顔見知りのインド人行者は
ニカッと笑って１００ワットのひもを引いた
★覚醒ロマンス
シアンカリで死んだ人には
アーモンドの香り
艶っぽいお通夜が始まって
繻子の黒絹がしゅすしゅす鳴る頃には
しっとりと雨がソフトフォーカスをかけるでしょう
死んだのは
誰なんですか
まさか例のあのアレでは
しめやかなる線香
たなびきたる紫の雲から
まるで久米仙人のように落ちてきたのは
に・ん・げ・ん
果実のように甘きにんげん
愛すべき朱色した苦しがってたにんげん
写真を残す義務がありますね
そういうあなたは誰です？
しめやか笑いだけが
黒いカーテンをバックに残る
わたしですか？
わたくしはロマンチスト
おそらくは最後の夜の愛です
★覚醒タップダンス
とたん たたん たたたん
苦しまぎれにハネてるひとの
ハネた汗から光がこぼれる
さああ髪もつやつやしてきた
わァッと手を広げ！
さッと射す強力ライト
闇と光がせめぎ合いからまり
美しいというよりはセクシアルで
あなたの閉じたまぶたの細いケイレン
その薄いまつげの震え方を愛しているよ
タップダンス たん
タップダンス たたタん
嗚咽するが如き口に
ひくりひくりとおびえる唇よ
甘い どんなキャンディより甘い
夜店で売られていた安い宝石が
あたたかい光の中で夢より高価になったのは
暗闇のタップダンス
あなたのオルガスムスはほんのすぐそこ
一千万にも広がった
観衆たちが
まるで涙のような音をたてて拍手をはじめる
★愛はかげろーさん
河っ原に夕日が落ちて
雑草の間ではしくりまわる
子供らのシルエットは
とんぼさん 追い
かぎろひさん 追い追い
ホーイおうちへかえんなさい
愛はかげろーさん つかのまのイノチ
ふわふわ浮かぶから取りたくなるの
白い綿毛のよーに夕日にきらめーて
わッ！ とつかんだらホホエミも出るでしょう
両手につかんでネ 抱えてネ
誰にもやりたくないのは子供だからネ
あなたおうちどこ どこ帰る
もってかえってかあさんに見せる
かあさんうなづいて 夜がきて
朝になったら死んじゃってるんだ
そんなことも教えない
子供たちは泣かない
泣いてもすぐ忘れる かあさんがいる
愛がかげろーさんなのは
ほぉらあそこの大きなおうちの影のせい
★おなにー・ぶるー 〈こんなタイトルつけんなよ〉
おなにー・ぶるー
夢に体力が追い付かないヨ
吐き戻しそーなこんな日は
長い本でも読むか
白はよろしい
黙っていられない
よごしてよごしてよごしきって
それは活字と呼ぶのよ
あなたは今ごろ何を読むの
ダメよ看板だけぢゃ
雨にけぶる白い教会で
今夜季節とゆかりなくミサが終わる
あのひとが急いでる、黒いコートはたはた
ホラこける、あっと危ない
いつも着かないうちに醒めるんだって
この夢わ。
オナニィ天高く目線あげて
尖塔の先にもやもやを見つけよ
エクスタシーにうるむ瞳に
とりあえずホシをいっぱい描いてあげようね
足元から見ている、いつも。
ぬかるんでいく陰部に指先、ダメだ、
ダメだマニキュアは、バイキンがはいるよ
雨は止まない
街いっぱいにスクリーンをかけておこう
明日のことは分からない ソレデイーノヨ
あのかすむ看板は可口可楽 ここは香港か
いいんじゃない
本が読めない
いつのまにか読めない異国の字になった
★ヨメにゆく恐怖
シートベルト正しく着用して
ワタシはＹの嫁になる。
おそろしいおそろしい
ムンクの叫びがいまわかる。
〔どーしてハナが飛ばないんだッ！ ―Ｙ〕
あなたのおヨメにゆくときにゃ、
カラダまるごと機械にあづけ
ワタシは重油の底力。
〔くっらー ―Ｙ〕
ホホが染まるよ少女のやうに
目付き悪いが腕はプロ。ホイ、
少年性、なくしちゃいけない少年性、
黙っていたって体は動く。わけだ。
〔クラッチとギアってどー違いますの？〕
わたしわ死に方知っている。日本の女。
たのもしさとウラハラの命の軽視。
〔さっさとやめてくれそのネクラッ〕
うれしさは、
うれしさはワタシを捨てれること。
しっかり立ち上がって外を見てます― 〔ルーフがついてねえ〕
あなたのおヨメは戦闘員。
いずれ恐怖は消えて行く―
〔スナオじゃねーにもホドがある わぁぁッ ―Ｙ〕
★笑えば野垂死
男はちーさな体を抱いて
野垂れ死にしたよん
ちょっと聞いてみようか
どんな気持ちです
― アタシゃね アタシのカラダを抱いて
野垂れ死にできるのがウレシくってね
あんたを愛したヒトは
笑っていた うれしがってたいつもいつも
それが― つらくって
それよりも快感で
男はいつも自分が主人公のよおな
心地でいたものさ
あたし インタビュアーよけーな存在
従軍記者のごときヒロイズムもなく
ただ聞く 聞いてまわるよ野垂れ死に男の夢
どんなキモチです
どんなキモチです
最高さあイッツマイベスト
男の背中に風が吹くころ
笑えば野垂死 タイトルコピーは空に浮かんだ
★ひとりぽっちの夜空に…
かあさんとよく似てるのよ。
意地っぱりの女の子は社会を編んだ、
電きゅうのした
かあさんの手にかかれば幾億個の編み目が
うそつきみたいに生まれ出たね
うそじゃない、手品。
〔あなたは技能者で労働者ではなかった〕
夢みるよ
ひとりぽっちの宇宙に似て
黒い海がはぐくむ生体物質と命の加速
そのステキさ誰も書きとめようとしないならば
なんのため
なんのためこんな
夢みるよぉな空白の下― 人は
通念のくるしみ交叉させハレツしていたよ
生成物分離
ひとりぽっちの夜空から
すべての愛情と夢と死を読みとってください
わたしはそこに います 〔いるんだってば！〕
うそつきの編み目組み立て
たったひとつのレースにセーター 〔ＯRはらまき〕
売らなくっちゃ食えない
買わなくっちゃ着れないよォと
夢みるかあさんの娘が旅に立つ。
〔わたしたいものがあるの…〕
かあさんより、２ばいしあわせ
だって社会がこんなに好きだから―
★雨の惨状
食いちらかした
すいすちーずの迷路から
ゴキブリのぞくクモ走る
キミのことだ
キミのせーだ
雨の惨状わカタせない
カタストロフの陽のぼり
明日なき胃をしめあげて
こまぎれの生き方がちらばり埋まる
まち―― に
濡れよ
濡れそぼつ
あざやかでそれはアザヤカで
混ぜれば灰色と知るばかりの雨の陽・よ
黄色光を返せ
わたしはひとり部屋
遊び散らかされたジグゾーなのよ
ムジャキな笑顔であばれる
少年去り
雨の惨状展開
★朝の― 悲しみわ
白くてホコリっぽい朝の悲しみわ
朝食にオートミルしか食えない胃のせいでなく
あなたの 食らいついた やみ
に去られたこと
さよおならさよおならあさげの香する
朝の悲しみをダレが知りませう
キミたちは夜っぴいて眠っていたよ
起こすのもったいなくてネ
おかあさんは千年昔から２時間はやおきして
子等に 亭主へとまなざしなげてきた― ものさ
おつけの具がないわヨ あらあ
割りきって タマゴ割りきって落とせ
人生論こいてシカメツラしいあの男は
「おおいメシ」と叫ぶ無神経さを自覚する
ハズもなく
黙って愛せ
朝のおかあさんの孤独
しろいしろいしろい朝陽よ
かなしみは
ゆげなしのぼる
あなたは夜だけ化粧する
★闇の神話
創生。
にんげんの肉をきりはなし抽出、純化された闇の
悪夢溜まりとも呼ばわるべき空間について。
そこがロマネスクであり得る。心的物理。
自動機械の戯作者たちから人間を引き算した― 作業の
あまりにも純化した分子拡散の界。剣(スウォード)だよ。
ここではヒトは剣の形でしか存在し得ない。なぜ？ ―血？
血は無いのだ。あまりにも生物質でキタナラシイものは消え去る、
血を呼ぶ呪文がすなわち― 剣だ。ヒトヲ呼ベ。
ヒトの呼び方すら抽象に墜ちて―
闇のロマネスクよ。共有し得るただひとつの
神聖集合無意識に似て非なるもの。愛よ去れ。
愛は作者のものである。
作者は作者を忘却している。 ―愛は。
光り美しき良きものであるか否か―
のみの。価値判断。生と死の賭博。無残な完全。
体温なき女の幻影。 ―ああまた、 また
少年たちは闇の神話に犯され続けていくのだから
創生。
苦痛から展開へ。
★コミニケーション・ブルー
やっとのことで風が吹いた。
君が 飛んでくる
―おおい、しばらく。
―どうも。
―何もなかったかい。やっぱり。
成層圏というやつはどうにも朴念仁、だね―
それでも君は青の方を選んだ、のだ。
生物体には向かない色だという事
随分口をきわめて忠言しておいたのに
―ふうん、向かない？
それじゃスミレは。貝紫は。
ニワシドリやモルフォ蝶は立場がないねえ。
―特例ばかり出されても
困るな。
次はチベットから立つという。
コミニケーション・ブルーとは
我々の暗号である。
友情とか、誓約によらない
ひとつの通信技術だ、青を媒介とする。
〔つまり青の中でしか届かないのだ〕
―だから大丈夫、だね。どこにでも青はある。
―空の色と海の色が 両方青なのは―
―偶然だろう。
すべての空間とすべての生物たちが
暖色と中間色を貪欲に吸収して
こればかりは役に立たないと、捨てた。
捨てた。捨てた。捨てた。捨てられ溜まった。
青。青。青。青。青の集積。
―コミニケーションを！
―飛ぶよ。
風が吹くたび君は飛ぶと言い張るのだった
夕日をのがれて東進せよ。
いや、明日を待て。
そして夜の氷結が始まる。
★まつり
あかいべべきて
きんとともって
みいちゃん、はぐれた
じゅうさんや。
こよい
まつりの
なかびにて、
しんこざいくの
つるにかめ、
ようよう
びいだま
しゃてきのタワア
おじさん しらない
どのこもおなじ。
みいちゃんみつめるわたのかし。
あかいべべきて
きんとと ゆれる
ひゃくのあかりの
かげぼうし―
びいずが ほしいな、
おなかが すいた、
おいなりさままででておいで。
★ジェリコのバラ
砂漠ができる。
仕方のないことだ。
文明の罪悪、大自然の非情、
嘘、だろう？
そんなちゃちなもんじゃない。
ジェリコのバラが転がってゆく。
根を失うと風にまかせて
荒野を旅する植物だ。
種をつけている。(当然。)
月の砂漠の姫。
クモやトカゲ、砂漠蛙の合唱、
ベドウィンにローレンス、砂の女―
記憶はにぎやかだ。
星の王子の井戸がある。走りたまえ。
ティエリ・サビーネの突っこんだ
砂漠の墓標が見える。祈りたまえ。
なにひとつ誇るものとて無く。
ゆえに己を誇りて。
砂漠での行き方はおのずと決まる。
干上がるまでに
できる限りのことを果たせ。
ジェリコのバラが行く。枯草の塊。
いや、闘うかばね。
０．８ミリの岩石の海。
〔水 …………〕
湖がさまよい出す。
転移荒原が遠く去る。 ―砂漠ができる―
仕方のないことだ。
孤独からしか始まらない花の話をしているのだから。
★それでも海に還りたいか
クラゲは、ふうせんのような
丸い頭をゆらして考えた。
―〔いや、クラゲが考えごとなど、と
笑わないでいただきたい。
彼には彼の人生観があった〕
こんなふうで いいのかな
こんなふうで いいんだ
水の味が うすい
―〔これは悲しい、の意だ〕
触手が、なにもとらえないまま
しびれている
―〔これはよく分からない。
詩を詠んだと思われる〕
体液が海水の成分に近いものは
海水に共振する。
海水に近い
すべてのものに共振する。
クラゲは、母のような
心を持っていた。
―〔しかし、小魚が通れば
ちゃんと捕まえて食べる。
慈善でクラゲをやってる
わけじゃないからだ。〕
そして彼は、考える。
うごめいただけかも知れないが。
こんなふうに 海が静かだと
水も大人の味がするね…
―〔意味は各自で考えてみて下さい〕
★たたかわず
白い チャペル。
赤レンガの道。
眠るような陽射し。
誰か 呼ぶ。
ミルクを注ぐ。
窓のゼラニウム。
午後、二時。
それだけが確かだ。
君はこういう絵はきらいか？
遊べよ、子ら。
街もつぶやいた。
たたかわず
たたかわず、 ―と。
★コンクリート・ジャングルブック
あーああー〜〜
何を思ったか
背広姿のサラリーマン
窓ガラス蹴破って飛んだ
あれよ あれよ
実は彼はロープの達人
ひらりと着地すれば
猛獣トラック踊り出て
こいつぁまずい！
危機一髪助けに現れた
弁当屋のおっさん知恵者で
石投げて信号こわす
キキキキキーーーイ
本能的に止まるトラック
OＬ十人が取り囲み
エモノじゃエモノじゃ
そこへ立ちはだかる
警察原人の群れ
「ハウ！」 (タイホする！)
負けてなるかと背広
愛車チーター号の無線で
警察無線をハッキングして
指令系統崩したのちに
地下街へと逃げ込む
フクロのネズミじゃ 追え！
しかし何を隠そう
地下街の管理室員は
背広のおさななじみだ
「やるか！」 「おう！」
なだれ込んだ警察原人を
シャッター閉じてとじこめ
うわあ水道管バクハだ！
人々は見た、
道路からフンスイ。
これを希望の滝と呼ぼう。
よ〜く〜も〜〜
吹き上げられた警人(略)、
背広の仲間たち、
そしてタクやトラックの
運転族、ＯＬ族、通行土人、
もはや決戦しか、ない。
「どわあああああ！」
コンクリート・ジャングル、
真の王者は誰だ？
実は弁当屋のオヤジである。
「あと五百個ほど追加だなァ」
背広の上司かも知れない。
「あいつフラれてから
強くなったもんだなぁ。
でも賠償責任負えるのかしらん。」
★ゆきン子
あかりが
みえたんで
あるいてきたよ。
こなゆきねえ、
三月にもなると
アメみたい。
陽がおちて
みちが凍って
星ばっかりでっかい夜空と
だあれもいない白い田んぼ
ひとりぼち
かいまきよせて
ひろおいな
ひろおいなって
渡ってきたんだよ
あたしは ゆきン子
へ い き
子ぎつねを見かけたら
いじめないであげてね
魚をくれたんだ
あかりを
見かけたから またいくよ
いつも あそびすぎる ゆきン子
おかあちゃんはもうかえった。
★幸福
ひょっとしたら
不幸さんのお通夜のこと
かも知れない。
・ついしん
現在、私はほとんど詩は書かなくなっている。他の事にかまけているのもあるが、ちょっと根性が無くなっているのも確かだ。
果たしてこの先再燃するか？ それとも、このまま感性スリキレて年食ってしまうのであろうか？
以下、次号に続く。(かもしれない…)